俺は気が付いたんだ。
曖昧なもの、不確かなものではなにひとつ安心できない。
弱さも強さも善も悪も
形なきものはいつも虚ろだ。
『確か』でなければ何も守れない。
確かなものがなければ駄目なんだ。
駄目だったんだ。





「あなた様がその道を行くというのなら、私は問わねばなりません」
ねねの言葉に秀吉は困惑した表情を浮かべた。
松永久秀に会ってから自分の夢へ向かう方法がより明確になった。もう迷うことはない。
決意を新たにした自分をねねなら喜んで受け入れてくれると思っていた。しかしねねの表情は厳しい。
「ついてきては…くれないのか」
慶次の秀吉を愛する心が形になったものがねねだ。秀吉を許し肯定する存在。
だからこそ彼女の態度に秀吉は動揺を隠しきれず問いかけてしまった。
ねねは秀吉を見つめたまま首を縦にも横にも振らない。
「私はあなた様の為に生まれました」
「ならば」
秀吉はねねの肩を掴んだ。僅かにねねの髪と体が揺れる。
しかし彼女の瞳はぶれず、じっと諭すように秀吉を見ている。息が詰まりそうだった。
「……お前は……この道が間違っているというのか…?」
「…いいえ」
けれど「その道」を行くには秀吉は知らなくてはならなかった。
それを知らずして進めば秀吉は自分の業に食われてしまうだろう。
本当はどんな道でも共に歩いていきたい。しかしそれでは未来の秀吉の為にならないとねねは思った。
「だから私はあなた様に問わねばなりません」
ピクリと秀吉の指が動く。ねねはその指に手を添え、ゆっくりと自分の肩から離した。
「そしてあなた様は私の問いから答えを出さなくてはなりません」
ねねの両手が秀吉の両手を包み込み、抱き寄せる。
こわばった手から戸惑いや悲しみといった感情が伝わってくる気がした。ごめんなさいとねねは心の中で呟く。
「答えを出して、なおその道を歩むというのでしたら」
「ねね」
悲痛な声が胸をえぐる。しかしもう止めることはできない。

「秀吉様、お慕い申しております。
 何があっても私はあなた様の味方です。
 あなた様の思うがままに進んで下さい」












問20130308