初めてあれに出逢った時の光景は、一生忘れられない。
目が痛くなるほど赤い夕日を背にこちらを見つめる姿はこの世の誰よりも美しく力強く見えた。
いつも高く結い上げている髪は解かれ、風が戯れるように毛先を撫でていく。
ソレは見慣れた友である筈なのに、全く知らない、何か別のものになっていた。
言葉を失って凝視するしかできない自分にソレはゆっくりと歩み寄る。
足下の燃える曼珠沙華が避けて折れも潰されもしない。
静かにソレは目の前にまでやってきて、自分を見上げた。
顔はやはり見知った友なのだが、何かが違う。
ソレは驚く自分を面白がるように目を細め、口の両端をわずかに上げてうっすらと笑った。
「はじめまして」
普段より幾分高い声が両耳を通り抜ける。
自分の頭はどうかしてしまったのか。
見た目も、声も、男であるにもかかわらず、自分はソレを女だと思った。
理由はわからないが敢えて言うなら雰囲気、身のこなし。
男にはないものをソレは持っている。さらにそれを美しいと感じた自分に目眩がする。
狂気の沙汰だ。
「秀吉様」
名前を呼ばれ我に返る。しかし友は自分をそんな風には呼ばない。
「ちょっ…ちょっと待て。わけがわからない。どういうことだ慶次」
友のあまりの変貌ぶりに狼狽えながら、いつもの悪戯とは違うことを確かに感じ取る。
錯覚ではない。この真っ赤に染まった世界に得体の知れない物が入り込んできたのだ。
そう、得体の知れない何かが。
「私は『ねね』と申します」
夕陽20120108