これは矛盾だ。

彼女を好いているのに、側にいてくれる時は彼女の顔に友の面影を見てしまう。
そして頭の中が友のことばかりになり、彼女が見えなくなる。
(彼女は気付いている。だけど何も言わない。)

友が隣にいる時は友の顔に彼女の面影を見てしまう。
そして頭の中は彼女のことばかりになり、今度は友を見なくなる。


どちらも大切なものなのに、目の前にいる相手に素直に接してやれない。
どうしてそうなるのか。理由は形を成さないが薄ぼんやりと理解はしている。
彼女達はそんな俺をどう思っているのか。
不器用な男だと笑ってごまかすのだろうか。
聞いてもきっと応えてはくれないだろう。
確かなのは彼女が自分をいとおしいと思っていることだけだ。
それだけ有れば十分だがそれだけしかない。
俺は彼女に泣きたくなるくらい綺麗な心をみる。
彼女はただひたすら俺を支えてくれる。

以前彼女に自分のどこがいいのか尋ねたことがあった。
すると彼女は笑って「そういうことを聞いてくるところを含めて全部」と答えた。
彼女には俺しかいない。
俺以外は無い。
俺以外は必要ない。
そのことが臆病な俺をひどく安心させた。そしていつしか彼女に依存するようになった。



友はその依存を「愛」だと教えてくれた。


「俺さ、秀吉に言っておきたいことがあるんだ」
「なんだ改まって」
「…あのさ、俺……ねねが好きなんだ」
「…」
「なに女の取り合いをしようってんじゃない。
 ただ彼女をいたずらに悲しませるようなことだけはしないでほしい」
一世一代の告白。
友の横顔に相変わらず彼女の面影を見ていたが、気付かないふりをして俺は静かに頷いた。





矛盾20110703