可愛らしい髪飾り、鮮やかな反物、甘いお菓子に諸方(しょほう)から集められた書物。
それらが畳の色を埋めるように散らかっている。
「くすくすくす」
星のようにキラキラと輝く綺麗な金平糖をひとつ摘みあげ口に含む。
部屋の中心に寝そべり畳の目を数えながら彼女らは笑う。
「こんなところをまつ様に見られたら、怒られてしまうわ」
「箒を振り回す姿が目に浮かぶよ」
金平糖を噛み砕き寝返りを打った。
「ねぇねね」
「うん?」
「見たことない本がいっぱいある」
「…半兵衛様からお借りしたの」
寝返りをうち手近にあった一冊を引き寄せる。
中を開くとそこには絵入りで薬草の効能などが詳細に記されていた。
「秀吉様もあなたも怪我が多いから、少しでも役に立てればいいと思って」
「間違えて毒草使わないでくれよ?」
「失礼ね。あっでもこれは間違えそうだわ」
ある植物の絵を指さす。
それは鬼灯の実ほどの大きさの木の実で、艶やかで甘みがあると記されていた。
「同じ果実だけど赤い実は毒で、青い実は食べられるそうよ」
「…赤い方が美味しそうなのに…」
「そうね」
ねねはそう言うと本を投げ出して再び寝転がった。少し着崩れたが気にしない。
ここには自分をはしたないと叱る者はいない。全てが自由。
開け放たれた襖があたたかい太陽の匂いを運んでくる。
「…慶次」
「…ん?」
眠い?と問うと慶次はこくりと頷いた。ねねは笑う。
慶次は暇さえあれば寝ようとする。そのくせ遊びとなれば何日も寝ずに過ごすことが出来た。
もっと配分を考えれば叔母に怒られずに済むのにと思う。
思うが言わない。眠いのなら眠ればいい。
この現世は、慶次にとって辛く、胸が痛むことばかりしかないとねねは知っていた。
だからせめて一時でいいから全てを忘れて楽しい夢を見て欲しいと願う。
しばらくするとすうすうと規則正しい寝息が聞こえてきた。
ねねは静かにその音を聞く。自身も寝てしまおうかと考えた時、かすかに寝息とは別の音を感じた。
しずしずと廊下を歩く足音。まつ様だ。
「慶次いるのですか?」
出掛けから戻ってきたまつが襖の開け放たれた部屋を覗く。
「まあ!またこんなに散らかして!」
まつは散らかった部屋とその真ん中で眠る慶次を見て声を荒げた。
ふたりだけの世界20110125