生きているくせに未来を見ない人間は嫌いだ。
ただ生きているだけでは何も変わらない。
未来をみなければ成長はしない、時間が止まっている、それでは死者と同じだ。
お前もわかっている筈だ。
それなのにお前は毎日を楽しく生きているだけでちっとも未来に目を向けない。他の奴らはどんどん前に進んでいくのにお前だけは足に根っこが生えたみてぇに突っ立っている。
そして後ろしか見ていない。過去しか見ていない。過去は不変だというのに、囚われ過ぎている。
「なにも昔のことを忘れろとは言わねぇがな、今のままじゃ駄目だ」
なんなら俺の後についてくるか?と鋼に覆われた手を伸ばす。
少々血に塗(まみ)れているがこの時代じゃ大したことはない。
差し出した手にお前は驚きの表情を見せたがそれは一瞬のことでまた次の瞬間には困った顔をしていた。
「ごめんな、あんたの手はとれない」
せっかく出した助け舟は目の前で空しく沈んでいく。
お前は過去に縛られていたいというのか。
過去に何があったかしらないが納得できない。
そんな俺の心境に気付いたのか、お前は俺から視線を外し気味悪いほど真っ青な空を見上げてぽつりぽつりと喋り出した。
「昔ね、本当に昔の話なんだけど、俺にはすべてをかけて守りたいと思っていたものがあったんだ。でもそれはある日あっけなくなくなった。そしたらさ、胸の辺りにポッカリと穴が空いちまったんだ」
風通しがよくてスースーする、お前が指差した胸には向こうの景色がはっきりみえる程の大きな穴が空いていた。
「月日が流れれば塞がるだろうと思っていたんだけど少しも良くならない。それどころか自分への憤りや無力さ、不甲斐なさで穴は広がる一方。きっともう腐っちまっているんだ」
ぼろぼろと穴が崩れ落ちていく。
「…それでも、前をみることはできるぜ」
動けないのなら、せめて死んでしまわないように、

「俺の作る未来をみろ」





無題弐20061226